察しのいい人、悪い人
安部は約束の7時半より早く到着した。これは珍事。
それでも金曜日の新宿は大賑わい。
4軒目にしてようやく入れたお店は串揚げ屋さん。
揚げ物はあまり好きじゃないけど、ま、いっか。
安部は「匂いがつくから」と、自分のコートの下に私のコートを掛けてくれた。
なになに、今日はやけに優しいじゃん。
生ハムと芽キャベツとか、椎茸とクリームチーズとか、一工夫してある揚げ立ての串は美味しくて、お酒が進む。
仕事の話、最近行ったお店の話、最近知り合った社外の人の話、今読んでる本の話・・・
安部主導で会話は進む。森永さんと飲むより断絶盛り上がる。
「トクちゃんの友達と五郎と4人で飲もうって話があったんだけど、土日も仕事で行けなくて」
やっと来たか、その話題。
二人じゃ会ってくれないから、4人にしたんでしょ。
最初は負けそうだからと連れて行かなかった五郎を、仕方なく誘ったんでしょ。
挙げ句、ドタキャンしたんでしょ。
彼女に失恋したから私なんでしょ。
トクちゃんから聞いてるけど、知らないフリをしてあげた。
事実を知らない私と会いたいんだろうから。
カッコつけていたいんだろうから。
安部は「週末は何してるの?」「週末デートは無し?」としきりに聞いてくる。
寂しいんだろうけど、タバコを吸う安部と週末に会うのは匂いがつくから困難。
「明日は?」
「昼は歯医者で、夜はトクちゃんと飲み会」
「俺も行っていい?」
トクちゃんの友達(男)と私の友達(女)を引き合わせる会に安部が参加?うーん、どうだろう。
「トクちゃんちの近所だから遠いよ」
「いいよ。タクシーで帰ればいいし」
察してくれない。
「私達だけじゃなくて、トクちゃんの高校の同級生と、私の知り合いの子もいるんだけど」
「同級生って男?」
「うん」
「二人をくっつけようってこと?」
「まぁ、軽くそんな感じ」
「俺も行っていい?」
まだ食い下がる?
ひょっとして、私の知り合い狙い?
「安部が会ったことある子だよ。そんな会でいいの?」
「俺はおよよがいればいいから」
うーん、このガッツ、断りきれない。
「じゃあ、トクちゃんに聞いてみて」
トクちゃんに判断を委ねてしまった。
そして夜は更け、そろそろお会計の時。
ホテルに誘われたらどうしよう…
安部と会う約束をしてからの懸案事項。
やるのは構わないけど、もう少し回を重ねてからにしたい気持ちが一つ。
歯が痛いし、口が開かないから、くわえるなんて言外、キスすら充分に出来ないというのが一つ。
ま、断りベースで成り行きに任せるか、と飲みながら結論を出した。(出てないか)
歯が痛いから、無意識に頬に手をやってしまう私を見て、安部は「疼くか?」「痛む?」と言ってくれた。
そして、私の手を引いて、真っ直ぐ駅に向かった。
安部のこういうところが、いい。
また会ってもいいなって思える。
次は期待に応えようかなって思える。
安部は自分の乗る電車が来たのに、ホームで私を見送っててくれた。
ベタだけど、嬉しい。すぐにメールが来た。
明日、トクちゃんにメールしてみるね。
もし、トクちゃんのお許しが出れば、およよに逢える。
休日におよよに逢えるって、幸せと思う。
逢える、デターーーーー!(笑)
翌日の土曜日、昼過ぎに起きたら、メールがたまってた。
まずは安部のメールを読んだ。
おはよ。昨日は逢ってくれてありがと。
さっきトクちゃんにメールしたよ。
オレが来るのは微妙ーってことなので、今日は欠席。仕方ない。
歯医者頑張ってね。
トクちゃんからはメールが2通。
今日、安部も呼ぶ?
メールあったけど…ビミョーじゃない?
○○君(トクちゃんの友達)、久々だからどんな感じかわからないし、安部は断ったよ。
安部はおよよがおいでよって言ってたみたいな感じだったよ。
あとこの間の私が紹介した子の飲みは私がセッティングしたんじゃなくて、安部がその子と連絡取って、五郎も呼んで行くつもりだったのにドタキャンだよ。みんなに失礼だよね。
で、脈ないからおよよを誘うのがムカつく。
安部と二人で会うのは構わないけど、休みとか止めてほしいな。
二人で会ってるの私、あんまりいい感じしないんだよね。
隠されたりするとなんかあるのかと思っちゃうよ。
トクちゃんご立腹。
安部のごり押しを断りきれなくて、トクちゃんにふった罰かな。
それにしても、トクちゃんは相変わらず冴えてる。
安部に会ったことも、休日デートに誘われてることも、安部がトクちゃんとの飲み会をキャンセルした話題が出たことも、知らないのに、全て的中。
察しがいいを通り越して、動物的直感の域だな、こりゃ。
そして、安部と会っても構わないと言いつつ、めっちゃ反対してるところがトクちゃんらしい。
裏表の無い生き方をしているトクちゃんだからこその倫理観+嫉妬。
怒られるのは嫌だけど、トクちゃんに限らず、普通の女性には、私の行動は理解しがたいんだろうな。
自己中で、自分の利益最優先で、ドタキャン王で、浮気性で、私も散々振り回されてるのに、それでも安部に会うなんて。
今だけだって分かってる。
次の恋が見付かるまでのつなぎ。
だけど、やっぱりね、それでもね、人って寂しいから。
寂しい時は誰かに寄り添いたいから。私もそうだから。
数時間私と一緒に居ることで、安部の抱える穴の一部が埋まるなら、そばにいるよ。
それは安部のためだけじゃなく、私のためでもある。
軽くて薄い私の存在価値を感じられる数時間だから。
そうして二人の奇妙な友情は十年続いているんだから。
今日もこれから安部とご飯するけど、トクちゃんには黙っておこう。
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